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ねこのかわ

とらぬ猫の皮算用

【映画】将軍様、あなたのために映画を撮ります

久しぶりにユーロスペースで映画をみてきた。

 

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将軍様、あなたのために映画を撮ります」

www.shouguneiga.ayapro.ne.jp

1978年に北朝鮮に拉致され、後に脱北した韓国人監督・女優夫婦を題材とした映画。

申相玉監督と女優・崔銀姫が北朝鮮に拉致され、映画を非常に愛したという金正日の指示で映画を作っていた、という話はとても有名だ。北朝鮮で申監督が作った「プルガサリ」は北朝鮮版怪獣映画として日本でもよく知られている。

 

彼らがいかにして拉致され、そして北朝鮮で映画を作っていたのか・・・

ということも興味深くはあるが、私がこの映画を見に行った1番大きなポイントは。

 

金正日の肉声、しかもこっそりと夫婦が録音した生の声を聞くことができる、ということ・・・・!!

 

金正日の肉声は、公式なメディアではほとんど公開されていない。

軍事パレードで英雄的朝鮮人民軍将兵たちに栄光あれ!」と話したのが唯一ではないか。

 

www.youtube.com↑なんでもYouTubeにアップしてる人っていうのはいるもんだねぇ

金正日の肉声は1分12秒あたりから)

 

この他に、2000年に韓国の金大中大統領と会談したときの韓国側映像などで肉声を聞くことができるのだが、まぁ、少ない。世界中に注目された人物なのに、様々なことがベールに包まれすぎている。

金正日の肉声だけでご飯3杯はイケる私が、この映画に飛びついたのも無理はない。

 

映画は、申監督が作った映像と再現ドラマ、そして崔銀姫本人と映画関係者や元CIAのマイケル・リーや脱北詩人の張真晟へのインタビューで構成されている。

 

最初に北朝鮮に拉致されたのは、崔銀姫だ。

金策のために香港に渡った彼女は、知り合いを頼って映画に出資してくれるという富豪に会いに行く。しかし、その知り合いは北朝鮮の協力者だった。ボートにひっぱり込まれ、注射を打たれてもうろうとしたまま北朝鮮に拉致されてしまう。

 

有名女優であった崔銀姫の失踪は、大きなニュースになった。

自らの女性問題で崔銀姫と離婚していた申監督だが、子どもたちに「母は絶対に探しだす」と伝えて香港を探し回る。

が、やはり香港にいた北朝鮮スパイに騙されて北朝鮮に連れていかれる。

 

・・・香港やばい。北朝鮮スパイ多すぎ。

 

ただ、無差別に彼らが拉致されたのではない。

金正日は大の映画好きで知られており、大学生時代から日本や韓国、海外の映画に没頭していたという。そんな彼は、北朝鮮映画のレベルの低さを嘆き、自国の映画の水準を世界レベルに引き上げることのできる監督を探していたのである。

夫婦が金正日との会話を録音した音声の中には、それを確認できる内容がある。

 

金正日「私が(あなたがたを)必要だから連れてこい!と言いました」

 

拉致された被害者に向かって、なんの罪悪感もなく言い放つのがすごい。

また、申監督は拉致後の「洗脳」過程で何度も逃亡を試みたことで何年も収容所に入れられることになる。「誤解」が解け、夫婦が再開したのは拉致後5年が経った後で、申監督が北朝鮮で映画を撮り始めたのもここからだが、監督が金正日に「私としてはもっと早くから映画が撮りたかった」と皮肉のように話すシーンがある。それに対して金正日が一切謝罪をせずに聞き流し、それでも監督が自分のために映画を撮ってくれると思っているところが・・・また、すごい。独裁者の一面をかいま見ることのできる一瞬だ。

 

彼らが拉致されたのは、韓国も独裁政権だった頃だ。

その時代に北朝鮮のために映画を撮る、ということは韓国の法律に反する危険な行為だった。そのため、二人は映画人らしく危険を犯して金正日との会話を録音することで、拉致された証拠を残そうとしたのだという。そしてそれは、金正日という人間をかいま見るための「証拠」となったことは間違いない。

 

しかし、二人が危険を犯して残したこの録音は、それでも申監督の「身の潔白」を証明するものにはなっていない、という。

映画によると、崔銀姫については北朝鮮による拉致、と認められているが、申監督に関しては「北朝鮮に亡命した」との可能性が排除できないのだという。南も独裁政権であり、自由に創作活動が行えないという状況の中で、自由に映画を作れる地を求めた、という可能性もなくはない、のだろう。

抑圧された世界で、創作の自由を求めた1人の監督がいたとして、それは悪いことなのだろうか。

しかし、彼が自由を求めた北の地にも独裁者がいた。

それが当時の南北朝鮮の現実だったのだろう。

 

もやもやとする心を抱いて映画館を出た私。

結局、私は小食なので、金正日の肉声でもご飯3杯は食べられそうになかった。